伝え手と、受け手の埋まらない溝
「こんな伝え方嫌だ」の話
例えば………
ある講演中、頻繁に出てくる“ベクター画像”という言葉がわからなかった人が質問しました。
「ベクター画像とはなんですか」
講師は答えました。
「ベクター画像とはラスター画像とは違い、アンカーポイント・セグメント・ハンドルを組み合わせたパスで構成されたベジェ曲線による画像です」
質問者は、「ありがとうございます」と言って着席しました。
さっぱりわからなかったにも関わらず。
技術・商品内容・サービスなどについての知識を持っている人が失ってしまうもの、それは知らなかった時の感覚。“知らない”状態を想像しにくくなってしまうのです。
説明する前に自分の知識の枠の中から出ることを意識しなければ、「こんな伝え方は嫌だ」コースまっしぐらですね。
しかし、何がいけなかったのでしょうか。先ほどの講師は正確に答えを言いましたが、質問者を満足させることができませんでした。
知らない状態を想像するというのはどういうことでしょうか。
伝え手が意識すべきことは「共感」です
伝え手は「それに詳しい人」と思われたい欲求を抑えないといけません。
情報を受ける側が「自分が賢くないのでわからないんだ」と感じてしまったら、二度と説明を聞こうとは思わないでしょう。
普通の会話でも関係がぎくしゃくするでしょうし、商品やサービス・会社説明ならうまく信頼関係を築けないことは致命的です。
共感とは、「いかに相手の立場になって話をするか」ということです。
どういった伝え方をすれば良いのでしょうか
情報の聞き手が「自分の知識で十分理解できる、言いたいことが分かる」と思えるような説明であれば、地獄の説明時間は回避されます。要は聞き手の自己肯定感・自信を失わせないよう工夫するのです。
具体的には
- 専門用語は使わない。
- 枝葉のような細かな説明ではなく、幹となる大筋を話す
- 「何を伝えるか」より、「なぜ知る必要があるか」がわかるように伝える
専門用語は使わない。
専門用語は使わないで、お互いの共通認識内で話すということは、誠実な印象につながります。
枝葉のような細かな説明ではなく、幹となる大筋を話す
大筋を忘れないで、本筋からずれるようならつまびらかな説明を避ける(聞き手がわからなくなる前に…!)と、相手の集中力が続いているうちに説明を終えることができます。
「何を伝えるか」より、「なぜ知る必要があるか」がわかるように伝える
「なぜ知る必要があるか」を常に相手が感じていなければ、説明の大きな綱を引っ張り続けることができません。「なぜこれを今する必要があるの?」と思ったことはありませんか。初めて料理をする人にカレーの作り方を教えるとします。火を入れる順番だけ教えてもなかなか覚えられませんが、底にこびりつくからルーは最後に加えると伝えたら納得してもらえます。ただ順番を伝えるより、どうしてそうなのかを一緒に教えた方が作業がスムーズです。
「言っていることがわかる」という安心感は伝え手への信頼につながります。
もし言葉での説明に限界を感じたら、「共通認識」を持つためのツールとして、説明をビジュアル化することもおすすめです。
説明イラストや、写真、装飾など。上記の3つを意識して資料を作成すると良いですね。
相手の立場に立ち、わかりやすい説明をすると、相手とのコミュニケーションが温かいものになります。
ちなみに…
もし私が講師で「ベクター画像とはなんですか」と聞かれたら。
白紙を2枚出し、そのうち1枚を星の形に切り取ります。
「これがベクター画像だとします。」
もう1枚の紙は、星のイラストをペンで描きます。
「一方、これがラスター画像です。先ほどのベクター画像と比べて、よーく拡大すると、インクがにじんだりして見えます。こちらのベクター画像(切り抜いた星型)は遠くで見ても近くで見ても切り目はかわりません。」
ベクター画像はラスター画像と対を成す概念と伝え、その二つを分けて説明する理由を伝えます。
説明方法を考えることは、事実を組み合わせた創作的な作業とも言えますね。
相手の立場に立った「共感」を重視したの説明についてでした。
参考文献 わかりやすく説明する練習をしよう。 リー・ラフィーヴァー 2013